ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

春を待つ心

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外は雪が降っている。
むしろ雪が降っている時の方が暖かいと言われる地方で、寒さに耐えながらの暮らしがあと四ヶ月は続く。
Nさんは、北海道東部に生まれ育った。
夏でもストーブが必要な時がある程、厳しい気候の地域だ。

公務員である夫と結婚したおかげで、生活はなんとか安定している。
もう子供も大きくなって、今は夫との二人暮らし。
天候が荒れて外に出て行くことが大変な時、Nさんはいつもストーブの前でゴルフクラブを磨いている。
テレビを見てボーっとしているより、その方が楽しいから。

ゴルフを始めたのは夫と結婚してすぐに夫に勧められて。
子供が小さい時はさすがにあまりやれなかったが、北海道はプレーフィーも安く、基本的にスループレーなので午前中や午後からでも十分楽しめた。
ただ、シーズンが5月半ばから11月半ばまでと、半年ちょっとしかないのだけが残念だった。
毎年ゴルフシーズンはあっという間に終わってしまい、雪の中で待っている時間の方がずっと長いような気がする。

...ゴルフに熱中している人にとっては、その待ち時間が我慢出来ないほど長い。
そのため、この地方ではずっと以前から冬の季節に暖かい地方にゴルフをしにいく人が多かった。
Nさんも10数年前まで、夫と近所のゴルフ仲間と一緒に1月や2月に「本土」にゴルフに行っていた。
そのために一年間、みんなで少しずつお金を積み立てて。
始めは主に関東地方のゴルフ場、とくに暖かいと言われる房総半島のゴルフ場に行くことが多かった。
Nさんは、初めて行った関東地方のゴルフ場で、
「うわあ、すごい!」「こっちのゴルフ場ってグリーンが二つもあるんだ!」
なんて言って笑われたことを思えている...素直にそう思ってしまったんだけど。

しかし、房総であっても凄く寒かったり雪に振られてクローズなんていう年があった。
わざわざ一年お金を積み立てて、折角来た房総で雪なんて...その次の時からは、「絶対にゴルフが出来る」と言うことで沖縄に行くことになった。
しかし、沖縄はお金がかかった...みんな積み立てた金だけでは足りなくなり、「沖縄はちょっと無理だ」ということになった。
じゃあ、沖縄より安い「グアム」や「バリ島」に行こうじゃないか...となった頃世の中が不景気になった。
Nさんは公務員だったのでその影響を受けることは小さかったが、街のゴルフ仲間は冬のゴルフ旅行の積み立てをする余裕が無くなった。
始めは12人から15人で行っていたゴルフ旅行は、グアムに行ったのは4人だけだった。
Nさん夫婦もいかなかった。
公務員が「仲間を差し置いて贅沢をする」なんてとても出来る雰囲気ではなかった。

以来、毎年Nさんは冬の間やがて来る春を夢見て、待つことになった。
練習場も遠くに暖房付きの屋内練習場があると言うが、そこまでして行く気にはならない。
春になれば、雪が溶ければ毎週1回はラウンド出来る。

それまでは、去年のラウンドの反省をしながら自分のクラブを磨く。
上手く使えたクラブは
「去年はどうもありがとう」「ことしもよろしくね」
と感謝を込めて丁寧に磨く。
上手くいかなかったクラブは、
「今年はがんばってね」「今年はいうこと聞いてね」
とお願いと期待を込めてなおさら丁寧に磨く。

これを繰り返していれば、雪が溶けて鮮やかな緑のベント芝が顔を出す春のゴルフ場で、きっとこのクラブ達も思い切り春を楽しんでくれるだろう。
ああ、春が待ち遠しい...