夏が近づいて来て、いろいろなものが宙を遊ぶ。
柚にとっては、それら全てが珍妙で不思議で、彼女の太古からの本能にささやきかける魅力的なもののようだ。
それは、蝶であったり、羽虫であったり、あるいは小鳥であったり、鳩であったり...
大きさ速さに関係なく、猫の目には動くものは良く見えるらしい。
これは、珍しくカラスアゲハが庭を訪れた時の、昼寝中だった柚の様子。
顔を横切った影に目を覚まし、半分寝ぼけたような顔で見上げる。
その目に映った不思議な動きで飛ぶ蝶の様子に、一遍に野獣のような緊張感を持った顔になる。
後ろ足がむずむずと動き、前足は宙に浮きそうになってヒゲが前に来る。
腰が浮き上がり、頭が下がり、目は一瞬たりとも蝶から離れない。
柚というのは、なんだか緊張感のない表情の猫だけど、こういったときは何時もより利口そうで精悍な顔に見える。
甘ったれた子猫の表情は消える。
こういう状態になった時に柚の名前を呼んでも、聞こえない。
蝶の動きに合わせて、頭が上下に動く。
お尻が左右に振られ、前足がぷるぷると動く。
蝶が近づいたら、飛びかかるつもりらしい。
....間に網戸があるのを忘れているのかもしれない。
(続く)