ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

きのこ

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Tさんは、9月から11月にかけては、毎週末ホームコースである栃木の奥の方のコースに通う。
特に競技に出るとか言う訳ではなく、メンバータイムを利用してのんびりラウンドする。

Tさんの本当の目的は、きのこ。
主にハツタケが目的だが、シメジ類が採れる事もある。

このハツタケというキノコは、十数年程前に一緒に回った地元のメンバーに教えてもらうまでは知らなかった。
その人はコースの近くで農業をやってるとの事だったが、ショットを曲げて林に入れると林に入ったまましばらく出て来ない。
「出しまーす!」と声とともにボールをフェアウェイに戻して、林から出て来る時には手に一杯のキノコを持っていた。
「これで今夜のごちそうが出来た」と笑っている。
林に入らなくても、ホール脇の木の下にキノコを見つけては「あった、あった」と嬉しそうに笑う。

「あの、そんなフェアウェイ横のところのキノコなんて、農薬が一杯かかっているんじゃないですか?」
「ああ、大丈夫だよ。」
「ゴルフ場で使っている農薬なんて、基準が厳しいんだから大した事ないんだよ」
「俺んちでやっている野菜なんか、ここの30倍もの農薬使っているんだから」
「あんた達が食べている野菜は、このキノコよりずっと農薬かぶってるんだよ」

「だから俺んちじゃあ、自分で食べる野菜は庭で別に作っているんだ」

Tさんは、絶句して何も言えなかった。
...しかし
「そのキノコは、どうやって食べると美味しいんですか?」
「これは汁にすると実に上手い出汁が出るんだ」
「だから、味噌汁にしたり、鍋にしたり...旨いぞお」

その地味で肉厚なキノコは、そこら中に生えていそうで、コースでよく見かけた記憶があった。
それから、その日一日
「これですか?」
「違う! そんなの食べたら死ぬぞ」
「あ、これだ!」
「違うよ! そんなのは何の味も無いよ」
「じゃあ、これは?」
「それも違う! よく見なよ」

わからなかった。
彼の採ったキノコと同じに見える奴を必死に探すのだが、全部違うと言う。
「そんなに簡単に見つかったら、みんなすぐ穫っちまうだろよ」
そうだろう,,,
目を皿のようにして探して、「これは!」と思うのだが、ちがうらしい。

その日のゴルフは、殆ど覚えていない。
集中力はキノコの方に行ってしまった。

しかし、彼に分けてもらった数本のハツタケで作ったキノコ汁は旨かった。

それからは秋になる度に、ゴルフとキノコの両方を楽しむためにこのコースに通っている。
なんとかハツタケが判り、とれる場所も覚えて来たのは2年かかった。
元々、キノコなんて買う以外に考えた事も無かったのだが、ゴルの後で自分で採ったキノコで作る汁物のうまさは、彼のゴルフと一体になった楽しみになった。

ただ穫るならキノコ狩りに(ツアーもある)参加すれば良いのだが、Tさんの楽しみは「ゴルフをしながら」というところにツボがある。
ゴルフとキノコだから楽しいのだ。
もうそろそろキノコも終わりだが、今年も十分楽しんだ。
また、来年が楽しみだ。

...そうそう、もうひとつ。
Tさんは、あの十数年前から、野菜は「有機野菜」しか買っていない。