ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

みんな俺が悪いのか?

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Nさんは、ホームコースで今年の春、ハンデ3になった。

9月の月例だった。
スタート前にキャディーマスター室に呼ばれた。
「ご一緒に回る方がいませんので、コースの研修生と回って頂きます。」
「え? 参加者が少ないの?」

...そうじゃなかった。
前の組も、後ろの組もちゃんとフォーサムで、顔を知ったメンンバー達が楽しそうに談笑している。
自分のスタートの9時丁度の組だけが、自分一人なのだ。
...Nさんは、毎週土・日と月例のスタートは、必ず9時に決めていた。
毎週毎週コースに顔を見せるNさんは、このコースの常連として知られた存在だった。
そのために、本来は申し込む時に決められるスタート時間も、「Nさんは9時スタート」という事が黙認され、月例に出るような人達は皆それを知っていた。

要するに、9時スタートをメンバー全員に避けられた、という事だった。

Nさんの父親は、この地方で名の知れた建設会社の社長だった。
20代半ばで父親から「仕事に必要だから」と言われて、ゴルフを始めた。
それなりに評判のいいこのコースの会員権も、父親に買ってもらった。

はじめはそれほど真面目にやらなかったが、30歳を越えて父親のあとを継いで二代目社長になった頃から熱中し始めた。
仕事のプレッシャーを忘れるのに、ちょうど良い遊びでもあった。
本来運動神経は良くなかったが、毎週毎週このコースに通ううちに、ハンデは徐々に少なくなり40を過ぎてシングルになった。
シングルになると益々ゴルフが面白くなり、月例の入賞や優勝を繰り返すうちに、ほかの人に勝つ快感に病み付きになった。

...ゴルフクラブでは、年齢や職業に関係なく、ハンデが上のものが偉いとNさんは思っている。
コースで良いスコアを出した方が、やっぱりメンバーに尊敬されるし、認められるのが当然。
何度も優勝や入賞を重ね、毎週必ず週末に来るNさんには、コースの人達はみんな挨拶をするし、何度も競技で争ったメンバーは最近の調子を聞くし、顔しか知らないメンバーが「あれがハンデ3のNさんだよ」なんて自分の事を噂しているのも聞こえてくる。
自分はこのコースのVIPなんだと自覚して、悪くない思いでいた。

フロントで支配人を呼んで、何故自分の組にほかの人がいないのかを問い質した。
支配人は、言い難そうに...しかし、はっきりと言った「すみません、皆様Nさんと同じ組にしないで...9時スタートにしないで、と仰るもので」。

何故だ?
俺が何をした?

俺はルールブックはちゃんと読んで、インイチキな事はしていない。
そりゃあ、ローカルルールだって何だって、ルールで許されている事は何でもするけど。
ロストボールだって、時計を持ってちゃんと5分間探すし、他人のも5分間を計っている。
自分の持ち時間だってきっちり30秒で打つし、アンプレヤブルや暫定球の処置だって間違えないようにルールブックを見て処置する。
勿論他人がいい加減にやっていたら、ペナルティーをつけて打ち直してもらう。
遠球先打は絶対にきっちり守って、遠い人が打たない限り自分は先に打たない。

スコアには拘る。
...当たり前だ、スコアを出すために競技をしているんだから。
とりあえずはオナーを穫り続ける事に拘るし、自分のナイスショットには浮かれるし、ミスショットには不機嫌になる。
タイガーだってやっているんだから、後に残さないために喜怒哀楽は我慢しない。
そんな事が表に出るかもしれないが、大の大人が「競技」をしているんだから、勝ち負けに拘るのは当然だ。
自分よりハンデが良い者に勝った時なんて、大喜びして何が悪い。
自分よりハンデが悪い者に負けた時に、悔しがって何が悪い。

なあ、みんな俺が悪いのか?
やっぱり、俺が悪いのか?

Nさんは、しばらく月例を休んで考えている。