ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

無頼

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Nさんは39歳、美容師としてそれなりの自信は持っている。
24歳で一度結婚したが、33で別れた。

別れることになった理由はいろいろあった。
夫の暴力、女性関係、美容師である自分の収入への甘え...等々、穏やかな結婚生活とはほど遠い暮らしが2年程続いた後、自分が夫と暮らしたマンションを出て、別れた。

ゴルフは、夫との仲がうまくいかなくなっていた31歳で始めた。
同業の友達に勧められて始めたゴルフには、すぐに夢中になった。
もともと学生時代から球技は好きだったので、ゴルフの面白さがすぐに理解出来たからかもしれない。
夫とのうまく行かない生活も、ゴルフの練習をやっているとみんな忘れられた。
仲間との月に一度のラウンドが生き甲斐になった。

夫と最後の時、「別れてどうするんだ。俺ぐらいしかお前の相手なんかする奴はいねえだろうが!」
「ゴルフだ~!そんな無頼な生活が続けられる訳ないだろう」
「でも、あなたといるよりゴルフをしている方がずっといい」
売り言葉に買い言葉だった。

...それから、ずっとゴルフをしている。
いくら懸命に集中してやったにしても、本当の試合に出て予選を通ったり、優勝を狙う、なんてレベルになるはずはないんだけれど、安く買ったホームコースでハンデが少なくなって行くことが、少し前迄「生き甲斐」ともなっていた。

ただ、美容師という仕事のために日曜日が休めず、ホームコースの月例に出ることが出来ない。
ハンデを縮めるためには、休みが取れる水曜日に開催される「平日杯」に出るしかない。
しかし、その平日杯は年に6回しかないために、自分の努力の結果が報われることは少なかった。

それで、2年前から楽しみの中心となっているのがオープンコンペ。
水曜開催のオープンコンペを探して、そこに一人で参加するようになってからまたゴルフの楽しみが一段と深まった。
遊びのときより緊張感があるし、スコアが良ければ結構入賞するし...優勝したことも1回ある。
女子だけ別の表彰をする所では、女子のベスグロなんていうのもとれた。
賞品も「グルメ」のときは嬉しいし、ゴルフ関係のときは中古クラブ屋に売ったりして、次のラウンド費用に出来るし。
今は、殆ど毎週いろいろなオープンコンペに参加して、いつでも女子の部のベスグロ狙い...そうなってみると、自分は別れた夫の言ったような「賞品稼ぎの無頼の人間」になって来たのかもしれない。

それに、最近オープンコンペでもう一つ楽しみが出来た。
もう3回顔を合わせた、50年配の中年の男だ。
最初は同じ組になって、その大人の紳士然としたプレーに魅了された。
腕も、ハンデ8くらいだろうか...切れのいいアイアンが格好いい。
自分のショットを良く見ていて、いいショットには小さな声で「グッドショット!」と褒めてくれた。
あと2回は別の組だったが、顔を合わせた時に挨拶してくれて少し会話が出来た。
ひげを生やした渋い男...多分同じように水曜日が休みの仕事か、あるいは時間が自由になる仕事か...
何かの縁で、もっと親しくなれればいいとは思う。
結婚したいかどうかは置いておいて、いつも一緒にゴルフを出来ればと思う。

今度申し込んだオープンコンペでも、やはり自分はその男を捜すだろう。
そんな気持ちも、自分が「無頼」の女だからなんだろうか。