ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

練習場の日々

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Bさんは、1週間に4日は近所の練習場に行く。
昼間の11時から4時近くまでをその練習場で過ごす。

打つのはせいぜい100球。
座ってタバコを吸ったり、顔見知りの人と雑談をする時間の方がずっと多い。
昼にはコンビニで買ったおにぎりを食べ、たまに練習場の喫茶店でコーヒーを飲む。

十年ほど前まで、Bさんは六本木にデザイン事務所を持っていた。
20年ほど前には、六本木を自分の庭のように洒落た自転車で走り回り、酒を呑み、女性と遊び、デザイン談義に盛り上がり、時代の先端を行く格好良さで知られていた。
彼のデザイン事務所では、手作業で様々なデザインをしていて、あちこちの代理店からの急な仕事をこなして、日に数万から数十万を稼ぐと自慢していた。
文字通り腕一本で新聞や雑誌の広告デザインの仕事をこなしていた。

流れが変ったのは、パソコンの普及からだった。
色々な代理店や広告事務所が、マックを使ってデザインソフトで仕事をするようになって、彼の仕事が激減した。
どんな急な仕事でも手作業で徹夜でこなす、なんていうのは必要がなくなった。
特に彼の仕事の中心であった、「カンプ」を手作業で短い時間で創る、なんていう仕事は完全にパソコンにとって替わられてしまった。

しばらくはそれでも六本木の事務所で頑張っていたけれど、事務所の経費が払えなくなって事務所をたたんだ。
そして自宅のある郊外の団地に戻った。
しかし、都心の事務所をたたんだ事によって、少なかった仕事がますますなくなり、今ではすっかり業界から離れてしまったという。
「今だって、センスには自信があるんだけどねえ...」
「なんか仕事は無いかなあ..」

生活は、奥さんがずっと働いているので心配は無いらしい。
ただ、毎日の時間がつぶせなくて、練習場で過ごす日々が続いている。
ゴルフはこんなにブームになる前に、代理店の人達との付き合いで始めた...ゴルフ関係の仕事も多かった...試合のポスターやパンフも作ったとか。
ハンデは10くらいまで行って、当時として非常に高い道具を揃えて、多い時には週一で行っていた時もあったという。

「新しいクラブを買えないから、ウッドはカバーをかけたままで、打たないんだよ。」

「もう7年くらいコースに行ってないなあ...」