ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

親父の写真

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「本当に親父か?」
Kさんが、自分の父親のその写真を初めて見つけた時には、ルーペで何度も拡大してみたほどだった。
...父親が、照れくさそうに、でも嬉しそうにカップを抱いている写真。

...そんなはずは...
だって親父は最後まで100を切るか切らないかの腕だったし、ハンデだって15まで行ったかどうか..
自分とやっても何時も10打以上多く叩いていた。

酒もタバコもやらずに、趣味と言えば毎週一回行く練習場と月一回のゴルフだけだったけど、真面目に続けていたのは知っている。
どういう訳でゴルフを始めたのかは知らないが、長くやっている割には極端なオーバースイングとアウトサイドインのスライス打ちは、とうとう治らなかったなあ...
自分がゴルフを始めた時には色々と教えてくれたけど、スコアが親父より良くなってからは何も言わなくなったっけ。
「ボールに触るな」と「プレーを早く」だけは何時も言い続けていたけど。

だから親父のゴルフの自慢話なんて、殆ど聞いたことがない...まして優勝したとかなんて話は一度も聞いたことがない...それなのに、出て来たカップを持った親父のモノクロ写真。
気になって、親父のものを捨てられずに仕舞ってある物置を探してみると...一番奥の荷物の下から、ボール箱に入った古いカップが出て来た。
カップの台座には「XXテレビ」と、地方テレビ局の名前が掘ってあって、あとはなにも書いてない。

その後テレビ局の広報に聞いてみても、よくわからなかったこのカップの由来が、この前やっと明らかになった。
知っていたのは、親父の古いゴルフ仲間のHさん。
自分があちこちでこの写真の事を聞いて回っている、と言う事を聞きつけて連絡をくれたという。

「そのカップは優勝カップじゃないんだよ」
「それ、テレビでやっていた大会のニアピンのカップなんだ」

かなり以前の事、その地方テレビ局の番組で視聴者が一組4人単位で出場して、チームの成績を競う大会を開催した事があったという。
その大会に親父の仲間が応募して、人数あわせに親父も無理矢理出されたんだとか。
チームのホールごとのベストスコアを出せばいいので、下手でも4人目でいれば問題なかったという。

その時にアトラクションとして、全てのショートホールにニアピンがあった...これは勿論個人のショットごとの記録だが...そのあるショートで、親父の万に一つのスーパーショットが飛び出した...オーバースイングの大き過ぎたアイアンが、テンプラ気味に当たり、あわやホールインワンの30センチに付いたという。
ホールインワンだったら車一台だったらしい)

この日の親父のナイスショットはこれ一発だけ...でも、チームとしても賞品を貰えたのはこのニアピンだけだったので、しばらくは親父達の仲間内で話題になったという...このとき成績が良かったチームはテレビに映ったらしいが、親父達にはカメラもつかず、テレビに映る事はなかったとか。

謎が解けたこの写真...ひょっとしたら、これが親父のゴルフ人生で一番脚光を浴びたシーンだったのかも。
なんか、親父の表情といい、カップをぎこちなく持つ手といい...微笑ましくて、額にでも入れて飾っておきたい気がする。
いいよなあ、親父、こんな顔あまり見た事ないような気がするんだから。
ニアピンのだ、なんて言わないでおくからさ。