ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

あちら側とこちら側...補

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難しい話ではあるけれど、自分の体験を書いておこうと思う。

ゴルフダイジェストの仕事を続けてするようになり、始めたゴルフにも熱中し始めた頃、よく編集者と一緒にいろいろなコースに取材に行くようになった。
でも、本当の「超名門」のコースは「うちは取材していただかなくても結構です」と断られることが多く、「名門」あるいは「準名門」なんていうコースは、たまに取材をかねてラウンドさせてもらうことが出来た。

ずっとフリーで仕事をしていた自分は、葬式や結婚式用の黒い背広しか持っていなかったのでジャケットを買い、マナーの本を懸命に読んで失礼のないように緊張してラウンドをした。
レストランの重厚さも、歴史ある風情も、上品な雰囲気も、「これが本物のゴルフコースだ」なんてしみじみ思ったものだった。
ただし、その頃自分が乗っていたランクルのBJ44を正面に近いところに止めたら、「奥に移動してくれ」とよく言われたけど(笑)。
改めて見てみると周りはドイツの高級車や、運転手付きの高級車ばかりだった...

そして、やはり取材でメンバーが多いことで知られた、いわゆる大衆コースのT県のKカントリークラブに行った時のこと。
駐車場は大衆車や軽自動車ばかりで、駐車場に入りきれなかった車が進入路にまで駐車していた。
レストランはデパートのレストランのようにザワザワと騒がしく、人が行ったり来たりで落ち着いた雰囲気はどこにもなく、時間が余った人たちはスタートホールのティーグランド辺りで昼寝をしていた。
そこには、あの名門のような落ち着いた雰囲気はどこにもなく、同じゴルフをやる場所とはとても思えない程だった。

だから我々はそれを見て「やっぱり大衆コースはひでえなあ」なんて話をしながら嘲笑していたのだ...自分たちがどちら側なのか勘違いして。
...よく高級品を売る店の店員が、貧乏そうな客が来ると「あんた達が来る店じゃないよ」なんて態度で応対するが、その店員がどちら側の人間なのか考えたらおかしな態度だ。

あげくの果てに、仕事のイラストで「大衆コースのゴルファーの酷い実態」なんてテーマでカットを書いたのだ...その人たちを馬鹿にした内容だ...特に「昼食を車でおにぎりを食う人までいる」なんてことを馬鹿にして。

...間違いだった。
数年前に会った若いゴルファーは見事にアスリートで、態度もプレーも気持ちよく、素晴らしいゴルフをしていた。
その彼が昼食時に、「僕は車でおにぎりを食べますので、よろしくお願いします」と言った。
聞くと「僕は月に4万円しかゴルフに使えないので、レストラン代がもったいないんです。3回我慢すれば1ラウンド出来ますから。」と悪びれずに言う。
練習場も月に一回程度で、毎日素振りを欠かさないそうだ。
「でも、試合では結構金がかかるので、その分の貯金もしなくてはいけないので厳しいです。」

俺は、普通に出ているマナー本なんかを読んで、そう言うゴルファーを馬鹿にしたカットを描いた...考えの浅い行為だったと、あれからずっと悔やんでいる。
あちら側では想像もできないことだろうが、こちら側でそうやってやりくりしながらゴルフを真剣に楽しんでいる人が沢山いる。

その姿を今の俺は、非常に美しい...なんて愛おしく素晴らしい人たちだ...
だからゴルフは素晴らしいんだ、なんて感じている。