ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

暗く冷たい雨の夜に

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外は冷たい冬の雨が降っている。
晩酌を終えて風呂に入って、一人の寝室の布団に入る。
(俺はフリーの仕事で、忙しくなったり急な仕事が入ると徹夜になったりして生活時間帯が家族と違うことが多かったので、寝るのはずっと昔から一人の部屋で寝ている。)

そして、暖かい布団に入り体を伸ばす時、いつも思うことがある。
「俺は、本当なら今頃は冷たく寒い段ボールハウスに震えながら眠れない夜を過ごしていたんだろうに...運が良かったなあ。」

本当に、絵を描いたこともないのに家を出てこの世界に飛び込んだ時には、「多分俺は長生きできずに野垂れ死にするんだろうな」という事を、当たり前のように覚悟していた。
己の才能なんてものは全く自分でわからず自信もなく、「俺より下手で下品な絵だよな」なんて感じる奴が「俺は天才だ!」なんて叫んで売れてる世界だったし。

なんだかんだはあったけど、初めてイラストレーターとして入った会社で、俺のことを認めてくれる人たちに出会ったのが運が良かった。  
俺もその人達もその会社はすぐにやめてしまったけれど、それ以降その人達との繋がりで仕事が広がり続いて行った。

そして、生活なんて投げやりになりがちな俺のところに、優しく美しい女(あくまで俺の目でね)が嫁に来てくれるなんて...モテた経験もない俺にはなんて幸運な事だったか。
(なんで俺で良かったのかは、いまだに彼女もよく分からないらしいけど。)
その女性は俺の勝手気ままな行動の重しとなり、俺が仕事をきちんとこなして生活費を稼いで「普通の社会生活」を送るための、彼女曰く「錨」の存在になった。
ま、確かに彼女が居なかったら、破滅的な行動を繰り返して間違いなく段ボールハウスで寝ることになっていたはず、と自覚はしている。

50まで仕事が続く筈はないだろう。
60まで生きていることは無いだろう。
...なんて思っているうちに、そんな年はとっくに過ぎてしまった。

そして今、金も無いし、地位や名声なんてものも全く縁が無いし、ゴルフも下手だしモテるなんて事は「アリエマセンヨ」の世界だし、頭は薄くなるし腹は出るし、あちこち痛いなんてのは普通の状態だし、酒飲む相手も誰もいなくなっちまった。
でも...



でも、雨のそぼ降る寒い夜、暖かい布団に入る度「ああ、俺は運がいいんだな」なんて、小さくそっと呟く。
そして、どこかで凍えて眠れない段ボールハウスで夜を過ごす、「別の俺」のことを考えながら...目を瞑る。