ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

渡り鳥

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「女房はねえ..」
「私が居ない方が落ち着いて暮らせるんだそうですよ。」

67歳の男はそう言った。
この日が二日目のオープンコンペ、昨日はこのコースからそう遠くないコースのオープンコンペに出たんだそうだ。
「結果は?」
「飛び賞の25位に入って、肉を貰いましたよ...セブンで氷を買って保冷箱に入れてあります。」

真夏と真冬以外のシーズンには、二日間から三日間続けての「オープンコンペの渡り鳥」をしているんだそうだ。
泊まるのはビジネスホテル、朝晩はコンビニ飯、昼食つき1万円以下のオープンコンペにしか参加しないので、結構安く収まるんだそうだ。
「今は年金暮らしで悠々自適ですか?」
「いやいや、年金じゃあゴルフ迄出来ませんよ....それに年金は女房に全部渡してますし。」
「このゴルフの金は、バイトして稼いだ金ですよ。」

「60迄はサラリーマンでバリバリやってましたよ。」
「私らの時は、サラリーマンにとってゴルフと麻雀は仕事に絶対必要なもんでしたから、始めたのは20代半ばから...ゴルフ歴は長いですよ。」
「ちっとも上手くならないけど、今はこれだけが人生の楽しみですよ。」

「どんなバイトかって?」
「いや、肉体労働ですよ...夏はプールの監視員とか冬はスキー場のロープウェイの係とか工事現場の交通整理とか...以前はそんなのがいい稼ぎになったんですけど、最近は私より若い50代の人にそういう仕事とられちゃって厳しいですよ...」
「この年になると、本当に求人が少なくなって苦労してますよ。」
「それでもなんとか日銭稼ぎの仕事を見つけなきゃ、ゴルフやれなくなりますから必死です。」

「...うちの女房は、私が退職して家に居る様になったら、鬱病になっちゃいましてね」
「その病気の原因は私だと医者に言われましたよ...最近、そう言うの多いらしいですね。」
「なにしろ私が目の前に居ない方が精神状態がいいらしいんですよ...だから私と一緒の旅行なんてとんでもないって訳で...あいつにはあいつの気楽な仲間がいるみたいで、私がこうしてゴルフやってる時にはあいつはあいつで楽しんでるんですよ。」
「私も不機嫌そうな顔見てるより、ゴルフやった方が楽しいですから、お互い様なんですよ。」

「疲れちゃいないと思うんだけど、今日は昨日より当たらないなあ...いつもはもうちょっと当たるんですけどね」
「今日はちょっと賞品にはありつけそうも無いですね」



「来月になったら4~5日北海道に行きます。」
「ええ、北海道のゴルフ場のオープンコンペのハシゴです。」
「北海道のコースはいいですよねえ...これで3回目ですが、今年は道南でもやろうと思ってるんですよ...今迄は、札幌近辺のコースばかりだったんで。」

「その後は必死でバイト探ししますよ...秋にまた旅に出る為にね。」

「オープンコンペってのはこうやって一人で参加出来るので、私みたいなもんにはいいですよねえ...」


「じゃあ、またどこかのオープンコンペでお会いしましょう。」...白髪のゴルファーは、ちょっと手を挙げてから、彼と同じ様な年季の入った車でゆっくり走り出した。

半端な夕焼けが始まりかけていた...半端な事に安心する気持ちが、なんだか不思議だった...