ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

素晴らしきアマチュアスイング!

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今までに「ああ、ゴルフ!」で「素晴らしいアマチュアスイング」として、今までに出会った中でも個性的だった二人の方のスイングを紹介した事があった。
最近出会ったこの方のスイングは、ユニークであるのみならず「ゴルフ・人生」を感じさせてくれたので「ゴルフな人々」のカテゴリーに書く事にする。

年齢は50歳前後、ゴルフ仲間との楽しそうなラウンドのようだった。
何となく自分の組のスタートまでに時間を持て余した人たちがたむろする中、ナイスショットを打ったその方のスイングを見ていた人はみな「え?!」と言って絶句したままになった。
「今、どんなスイングした?」と後ろの組の人たちが、囁きあう。

普通のスイングではなかった事は確かだが、皆彼の組がスタートしたあと「こうだったろう?」「いや、こうしたみたい」なんて真似をしあっているが、その形はてんでんばらばらでとても彼のスイングに似ていない。

あとで遠くから彼のスイングをカメラに収めて、やっと彼のスイングの流れが判る。

まずアドレスは普通のアドレスで全く変わった所はない。
テークバックを始め、シャフトを立てて上げて行く...少し頭が沈み過ぎるが、そこまでは判る。
ところが腕が地面と水平になったくらいの所で、一旦シャフトを寝かせて止まる。
次にそのままで極端に低い姿勢になる(まるで座り込むくらい)...そこで一拍置いたあと(初め見た時はここでスイングをやめるのかと思った)、身体ごと後ろを向いて起き上がりつつクラブをトップの位置に持って行く。
このしゃがみ込んで後ろを向いた時をトップにして、そこから振るなら判る。
しかし、そこから反動をつける様にしてドンと起き上がりながらトップを作り、そこからは普通に奇麗に振り抜いて行く。
ヘッドスピードはかなりあるようで、強い球が出て距離が出る。

しかし、ほんの少しのタイミングのずれが時々ショットを大きく曲げる原因になって、スコア的には厳しそうだ。
「XXさんは、よく飛ぶよなあ」なんて会話が聞こえたので、仲間内では飛ばし屋なのかもしれない。

変わったスイングの人は沢山いるが、この人のスイングを見て感じたのは「あ、この人はスイングのイップスを自力で克服したんだな」ということ。
以前ゴルフチャンネルだかなんかで、アメリプロバスケットボールの大スター「チャールズ・バークレー」(だったと思ったが)が、「世界一下手なゴルファー」だとかで、世界的な名レッスンプロ達が救う為に彼を教えるレッスンするという番組があった。
彼のスイングの最大の欠点は、バックスイングが出来ないということ。
バックスイングで、どうしても途中で止まってしまい、苦しそうに無理矢理そこから振ろうとする...見ているだけで苦しくなる様なスイングだった。
プロバスケットボールの大スターであるから、運動神経は超一流、体力も身体の筋力も柔軟性も全て超一流。
なのに、止まっているボールに対して、素直に腕を振り上げられない。
もちろん原因の第一は精神的なものだと誰もが言う。
著名なレッスンプロ達は、自分なら簡単に直せると自信満々でレッスンするのだが、練習ではなんとか克服して良くなった様に見えてもコースに出ると元に戻ってしまう。
誰がやってもダメだったようだが、結果がどうなったかまでは見ていない。

でも、知り合いの漫画家にも「振り下ろせない」イップスにかかった男がいて、その悩みと苦しさを彼からよく聞いた。
いくら自分で打とうと思っても身体が言う事を聞いてくれず、トップで汗びっしょりになり顔を真っ赤にして力を入れ、腕や身体がぷるぷる震えるのにクラブを振れない....途中でラウンドを中止したあと、数年かかってやっと普通に振り下ろせる様になったとか(数年ゴルフから離れていた)。
(他にも野球の江川氏が、同じ様にクラブが振り下ろせないイップスだとも聞いた。)

良く世間で言われるような「下手なヤツにイップスなんてない」「下手はイップスなんてならない、言い訳にしてるだけ」と言うのはウソ。
パターだけは言い訳に使う人が多いが、スイングのイップスは真面目にゴルフに打ち込んでいる人こそがなりやすい病気だ。
このスイングイップスになる人は真面目な人が殆どのため、結局ゴルフをやめてしまう人が多い。
バークレーの例でも判る様に、そのイップスは世界的なレッスンプロでも治す事は容易じゃない。

このアマチュアスイングのゴルファー、多分スムーズにトップまでクラブを持って行けなくなったんだろう。
どうしても腕が水平になる所で止まってしまう。
そこで、彼は試行錯誤のあげく座り込んで腕を上げる反動をつける事にした。
スムーズな一連の動作で上げる事が出来ないなら、止まった所から一旦腕もクラブも下ろして座り込み、そのままでは苦しいので身体を座ったまま後ろに回転させて、その戻る力と立ち上がる力を利用して一気にトップに持って行く...あとは普通に振り抜く。

ちゃんとしたヘッドスピードが出ていてボールにちゃんと当たる事から、運動神経もいいし飛ばす...彼がどんなに努力してこういうスイングを作り上げたか、どれだけの時間をかけて振れる様になったのか...そんな時間を想像して、尊敬する気持ちが湧き出てくる。

上手くなるのに一番近道なのは、レッスンプロに習って合理的なスイングを始めから身体に覚えさせる事だ...そしてゴルフを始めるのは若ければ若い方が上達は早い。
しかし、30代40代になってから始めると金と時間の関係で自己流で(結果として変なスイングで)ゴルフを続けてしまう人が多い。

そんな世の中の「普通の変態スイングの」おっさんゴルファー達にとって、こうした自分しか出来ないスイングを作り上げてゴルフを楽しんでいる人は自分を力づける目標であり、自分もそうなれるという希望である。

実際のプレーでは、一旦完全にボールから目を離してしまい頭の上下左右の動きが極端に大きい為に、常に正確にボールをヒットするという「スイングの再現性」は低いだろう。
しかし、プロに「あのスイングで打ってみて」と言っても、まずちゃんと当てる事は難しいと思われるスイングを作り上げて、全てのスイングをそうやって打っているこのゴルファーは「素晴らしい!」

年をとっても、ずっとそのスイングを極めて行って、ずっと淡々とゴルフを楽しんでいて欲しい。

本当に
汗と努力と笑顔の「ゴルフな人」、万歳!

だ。