ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

運転免許

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Sさんは、30になってやっと運転免許を取る事を決心した。
郊外に住み都心に仕事で通うSさんにとっては、車はそれほど必要なものではなかった。
周りの同年代の友人達も身分証明書代わりに免許を取った人が殆どで、実際に車を運転している人はごく少なく、地元では自転車、都内では電車を使って別に不自由なく暮らしていた。

ただ、2年前に始めたゴルフについては、車がないのが不便だと感じていた。
上司に練習場に連れて行ってもらって、初めて体験したゴルフ...面白かった。
毎日同じ繰り返しだと感じていた人生に、アクセントになる楽しみを見つけたような気がした。
それで中古のクラブを揃え、家の近くの練習場の「夜の部」のスクールに入って、週一回平日の夜に真剣に練習を始めた。
半年程スク-ルに通い、ラウンドを経験した。
...想像以上に面白かった。

会社のコンペや、練習場で知り合った人達とのラウンドは、現在のSさんの人生の最優先のイベントとなった。
そこで不便に感じているのが、コースに行く交通手段だった。
会社のコンペでは、家が近い上司や同僚の車に乗せてもらい、練習場の仲間とのラウンドも順番に誰かの車に乗せてもらっていた...それが、だんだん苦痛になって来た。
気を使い、高速代やガソリン代を出したり、お礼に何かをプレゼントするとか...

...真剣に車の免許を取る事を考えた。
しかし、免許を取るにはまとまった時間とお金がいる。
その間はゴルフに行く余裕がなくなるだろうし...

そんなSさんが免許を取る事に踏み切ったきっかけは、可愛い車を見かけたこと。
それはいつも行く練習場の駐車場に、まるでおもちゃのように停まっていた。
「ああいう車に乗るんなら、ゴルフに行くのも楽しいし、乗っているだけで楽しいに決まっている!」...そう思った。
次の日から、自動車教習所に申し込んで免許取得に向けてスタートした。
幸い、一緒に住んでいる母親が「買い物に気楽に連れて行ってくれるなら」と、教習所の費用の一部と、車購入の一部のお金を出してくれる事になった。

ただ、Sさんが免許の講習に通いながら、あの可愛い車の事をネットで調べてみると...
その車は、「スバル360」だと判った。
なんと1958年から1970年にかけて作られた、クラシックカーとも言われる古い軽自動車の名車だった。
あの駐車場にあった車は本当に奇麗に輝いていて、とてもそんな古い車には見えなかったが、今では維持するにも相当お金をかけなければならないような車だった。
とても初心者マークをつけた女性が乗れる車ではなかった...クーラーもエアコンも、殆ど何もついてないし、安全性も今の車とは段違いで良くはない。

それともう一つ、ゴルフバッグを乗せるにも助手席か後ろの席に乗せられるかどうか...
母親を乗せるにも...とても喜んではくれないだろう。
それになにより、「乗れる」状態の車を探すと決して安くはないとわかった。

...集中的に教習所に行く訳にはいかなかったので、3ヶ月近くかけてやっとSさんは免許をとった。
車は両親とも相談して、結局普通のミニバンになった。
Sさんはゴルフのとき(練習場も)しか使わないので、その他の時には父親も乗るという事で半分は親に負担してもらうことになった。

まだまだ運転は初心者のうちなので、おそるおそる安全運転を心がけて走っている。
しかし都内で仕事をしている時や、運転をしている時、ついあのスバル360を探している自分に気がつく。

ゴルフと、ゴルフ場に行く車。
Sさんは、そんなことが動機で免許をとる気になった、なんて誰にも言えない。
でも、今でも本音のSさんの夢は、いつかあの可愛い車「スバル360」でゴルフ場に行く事。

...多分、絶対、無理だろうと思っているけど。