ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

白いキャップ

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その日、コースは空いていた。
奥さんと二人で「あーだ」「こーだ」言いながら、いろいろチェックしてプレーするにはちょうど良い進行具合だった。
前にも他の組の姿は見えず、後ろにも他の組はついて来ない。

そんな風にのんびりと試しながらラウンドしていると、あと二ホールでハーフ終了という所で後ろにカートの姿が見えた。
後ろとは2ホールくらい開いていると思ったのに、「ずいぶんプレーが速い組だなあ」なんて思って見ていると、なんとカートに乗っているのは一人だけ。
急ぐようならパスしてもらおうと思ったが、見た感じは上手くもなく、下手でもなく...ポーン、ポーンと楽しそうにショットして、のんびり回っている様子。

近づいて来ないので、そのままこちらもプレー続行。
ハーフが終わって、食事。

しばらくすると、年は70以上、やや太り気味の大きな男がニコニコしながら、白いキャップを片手にハウスに入って来た。
本当に見事に日に焼けて、顔と腕はまるでコーヒーが肌の奥から沁み出て来るような濃い色をしている。
あまりに焼け過ぎて、眼鏡をかけている以外の表情が読み取れない程。
多分入れ歯だろう、真っ白い歯が顔の中で光っている。
鼻の辺りまでは黒々と焼けているが、額から上はだんだんグラデーションがついて、ほぼ真っ白な頭頂部へと続く(見事に禿げ上がっている形の良い頭が、彼の笑顔に良く似合う)。

ニコニコとして、レストランの若い女性と楽しそうに話をしている。
慣れたその様子だと、週に一回以上このコースに来ている常連さんと見える。
きっと、いつも一人でカートに乗って、散歩代わりにラウンドしているんだろう。

奥さんと食事をしていると、さっさとカレーを食べたその男は白いキャップを被ってレストランを出て行こうとしている。
キャディーマスターに、「途中でパスさせても悪いので、午後は彼が先に出るようにしておいてください。」と言っておいたので、そうするんだろうと思って見ていた。

と、彼はレストランの出口で、キャップの上にもう一回キャップを被った...
「あれ?」と、こちら二人は目を合わせてから、もう一度彼に注目する。
暑い日の光の中に出て行く前に、彼は背中をこちらに向けて身だしなみを整えている。
そしてキャップを一度かぶり直す...「あ!」
手に持った白いキャップの下には、もう一枚白いキャップが...

驚いてもう一度しっかり見直すと、彼のキャップを脱いだ後頭部には、耳と耳を結んでくっきりと真っ黒と真っ白に分かれている。
かぶり直したキャップは、きっちりとその境界線に収まった。

「あのおじいさん、きっといつも同じあの白いキャップをかぶってゴルフしているのね」

髪のなくなった頭に、いつも同じ白いキャップをいつも同じようにかぶって、週に何回もラウンドしているからキャップの形にはっきりと日焼けの跡が残ったんだろう。
顔の側はつばがあるので、日焼けもグラデーションになってあまり不自然じゃないんだけれど、後ろ頭は白いキャップの形にくっきり、はっきりと一直線!
少し離れると、それはキャップが無くても、頭にいつも白いキャップを乗せているようにしか見えない。
(...今までに、これほどはっきりとした「後ろ頭日焼け」は見たことがない...)

...我々がスタートする頃には、彼はそのホールのグリーンで、頭に二つの白いキャップを乗せながら、楽しそうに一人でパットを打っていた。