ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

諦めない人

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Mさんは、スラッガーだった。
プロにも目を付けられていた程のホームランバッター。
内角球はもとより、外角に外れる球迄無理矢理引っ張ってレフトフェンスを越える、典型的プルヒッター。
ただ、つぼにはまるととてつもないホームランを打つが、三振も多い荒っぽさがプロへの道を阻んだ。
左にしか打てないバッター...ある程度のレベル迄来ると、いいピッチャーには簡単に料理されるバッター...20代半ばでプロの道は諦めた。

それからしばらくの時間スポーツをすることはなかったが、30を越えてゴルフをする機会があり...たちまちのめり込んだ。
180センチを軽く越える身体と、野球で鍛えた体力がまだ十分残っていて、当たれば三百ヤードショットとなった。
同伴競技者が腰を向かす程驚くのが快感となり、練習にも身が入ってすぐに上達して行った。
2年でシングルになった。
...しかし、そこで壁に当たった。
ハンデ9にはなった...しかし、常に70台のスコアが出ない。

原因はドライバーだった。
野球のバッティングでは、身体は足首の回転から始まり、膝、腰、肩、手の順で回転して行く。
肩を回転させておいて、最後にバットを手首で強烈に返して行くのが、プルヒッターだった彼の身体が覚えた野球の「スイング」だった。
ゴルフでもその身体に染み付いた動きの癖は抜けなかった。
どう練習しても(意識的なハーフショット以外は)、肩が早めに開いてそれから手が強烈にクラブを振りに行く。
タイミングが合えば三百ヤードを軽く越えるけれど、少しでもタイミングが狂うと右左に強烈に曲がる。
...悩んだ。
無理矢理肩を開かないように意識してスイングすると、250ヤードも飛ばない上に、引っかけが出る。
少しでも振りに行くと、悪い癖が出てボールが暴れる。

本も読んだし、レッスンプロにも相談した。
三年、努力を重ねた後、諦めた。
Mさんは、それ迄使っていたクラブをみんな捨てた。

...そして、左用のクラブを買った。

「自分の運動能力なら、絶対に3年で上手くなる。」
「悪い癖のついていない左でのスイングなら、右で壁に当たったハンデより上手くなれる。」
そう考えて、グリップから作り直す事にしたのだ。
はじめはボールに擦りもしない空振りからだったけど、身体の動きは新鮮だった。
今は1年目が終わる所...90前後のスコアで回れるようになった。
まだ右の時程の飛距離は出ていないが、右の時よりずっと曲がりの少ないボールが打てている。

面白い。
ゴルフは本当に面白い。
こんなに新鮮な気持ちで挑戦しているのは、中学で野球を始めたとき以来。
もう40になるのに、今は少年の時のように練習して自分のものになる「全て」に、興奮がなくなることはない。
光は見えている...より明るい光のもとへ、崖を登るMさんの気持ちはへこたれることはない。