ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

バカヤロ男とコーマン女

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あるオープンコンペで一緒になった、60代半ばの白髪の男。

「ゴルフは、スロープレーが一番いけないんだ」と、やたらせかせか動き回る。
他の人が打ち終わる前に、もう自分が動きだす。
確かに歩くのはちょこちょこと小走りに近いような感じで、いかにも急いでプレーしようとしている「ように」見える。

が、このパーティーで、我々残りの3人はこの男の分迄、急がなくてはならなくなった。
実にせわしなく動き回る男だが、「手続き」が長いのだ。
自分がいつからか決めてしまった「ルーティン」を、どんな時でも守らなくてはいけないと固く神に誓っているようだった。
せかせかと細かく動き回るのに、ボールをセットするのに、ティーグラウンドの一番前ぎりぎりのところに、ティーの高さから文字の方向迄細かく細かくセットする。
ボールの方向を決めたら、せわしなく3回素振りをして、もじもじとアドレスに入る...もじもじもじもじと動いて...止まる。
「さあ、打つか」と思って見ていると...それまでせかせかと動いていたのが、嘘のように静止してしまう。
「え?」と、見ている我々は前につんのめる思いで、それぞれ「止まった姿勢」で打つのを待つ..待つ...待つ...
息を止めていた肺が「もう限界だ!」と叫び出す寸前に、突然発作が起きたように強烈なスピードで振り上げ...打つ。
打ったと思った瞬間には、その男は剣道の正眼の構えでボールの飛んだ方向を向いて立っている。
...その方向は、毎回ボールが飛ぶ方向が違うので、右だったり左だったり...それはそれで滑稽なんだけど。
まさに、光速のバックスイング、鈍足のダウンスイング...
「プレーの遅い奴は、ゴルフやっちゃいかん」と、上から目線で言うのだが...

そんなプレーの昼休み、それぞれが夫婦でゴルフを楽しんでいるか、なんて話になった。
「ゴルフは女房なんかとやっちゃいかん」とその男は強調する。
「なんでですか?」
「ワシは喧嘩ばっかりになるんで、絶対に女房とはやらん」
「今日だって、女房は前の組で回っとる」
「え?」

前の、女性4人の組の一人が奥さんなんだと。
見た感じは、この男よりずっとスイングは奇麗で、プレーもテキパキとしていそうだ。
「ひょっとして奥さんの方がスコアがいいんじゃ?」
なんて一人がからかうと...「....」
黙り込んでしまった。

ラウンド終了後、クラブの確認をしている時に、その婦人が男のところに来て言った。
「今日はどうでした?」
男は黙ってスコアカードを見せる。
「あらあ、全然進歩無いのね」
「ゴルフ、向いてらっしゃらないのね」
「相変わらず変な格好だし、あたしの主人です、って言うのが恥ずかしいわ」

男の頭から、湯気が立っているのが見えた。
...後ろを向いて聞いていた3人は、吹き出しそうになるのを、必死でこらえた。

「...おかしくて、涙が出て来た」
「あれで、よく離婚しませんね」
「亭主も亭主だけど、奥さんも奥さんだよなあ」
「俺、自分の奥さんに恵まれたなあ...」
3人で下を向いたまま、こそこそと...

奥さんは女性のベスグロや、3位の賞品や、ニアピンなどの賞品を山のように受け取り、男は参加賞だけを持って...「ちゃんと」二人一緒の車で帰って行った。