ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

別れの時

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もう19年になる。
人間で言えば90を過ぎた年なんだと...

長女が小学生の時に拾って来た子猫は、野良生活で苦労したらしく、人になつかない猫だった。
餌を与えても、それを人から見えない場所に持っていって、うなり声をあげて食べていた。
虎縞で顔立ちのいい雌猫は、娘達にクレオパトラを略して「パトラ」と名付けられた。

娘達二人と妻以外には懐かず、俺に対しては冷ややかな対等関係、というところだったろうか。
いかにも猫らしく、媚びず、甘えず、誇り高く、マイペースで我が家の一員として暮らして来た。
若いうちは、飛んでくる小鳥にも木に登って挑みかかり、うちの小さな庭に侵入してくる猫達には、どんなに相手が大きくても雄猫でも果敢に戦いを挑んでいった。
そのため、顔面に向こう傷が絶えず、怪我も多い猫だった...しかし、尻尾や背中などを噛まれたことは一度も無く、常に身体の正面にしか傷を受けないというのは...気の強さもハンパではなかったんだろう。

7-8年くらい前までは、ちょっと太り過ぎじゃあないかというくらい太っていて、のっしのっしと歩く姿を良くからかったものだった。
それが、ここ1-2年は身体も痩せ、だんだん走り回ることが無くなって来て、階段も一段一段ゆっくりしか登れないようになった。
...外に散歩に行っても数分で帰って来て、日がな一日昼寝ばかりするようになって来た。
歯が悪くなり、食べ物も柔らかいものしか食べられなくなり、好き嫌いが激しくなった。

それでもマイペースで誇り高い風情は変わりはしなかった...

その猫がここ数日から、食べ物も水分もとらなくなり、じっと寝ているだけになった。
当然、心配した娘達は獣医に連れて行ったりしたんだけれど...腎臓が悪くなり、体温が下がり、ここ数日だろうと言われたという...
90歳を過ぎた年齢の猫...いわば老衰という形で寿命を終わろうとしている。
娘や妻は、何か出来ることはないかと自分を責めているけれど...静かに眠る猫には、安らかな表情しか見えないのだから...

家族の一員だったものがいなくなることを、「幸せだった時間が終わってしまうみたい」と妻は泣く。
諸行無常、同じではいられない、さよならだけが人生だけど...いい思い出があれば、人間は生きて行ける。
死ぬまで生きて行ける。