ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

松村信吾のヒッコリーゴルフの手引き・3−3 『クラブ紹介・アイアンクラブー2ー』

・アプローチングクリークとジガー

 

 クリークの派生クラブで、ランナップアプローチやフェアウェイからの長~中距離ショットに使われる。
 フランジのない L 字パターにロフトが付いた形(尤も L 字パター自体クリークが基だが…)で非常にシャローフェースなので、フルショットをするとボールが上がり易い。ロフトは AC が 20°台前半で 37~39in 位、ジガーが 25~30°位で 36~37in。後者はアップライト目のライ角。
 彼らの仲間にサミーという、ヘッド形状がメーカーによってロングアイアン寄りであったり、上の2モデル寄りのクラブがある事を確認している。


『―筆者の所感―いにしえの名手の相棒』
 ジガーというのは 1880~1910 年代に競技・クラブ製造で活動していたスコットランドはノースベリックの名物プロ、ベン・セイヤース(Ben Sayers)が開発した。と言われているが、アプローチングクリークとどちらが早かったか、あるいは同一であったかについては、筆者は存じ上げない事をご容赦願う。
 名前の由来はお酒などの液体の単位の方のジガーや、ツツガムシの仲間の“砂蚤”ではなく、道具制御器具(Jig治具)の方が語源であろうか。
 ともあれアプローチとショット兼用のお助けクラブとして 1900 年代には各メーカーで造られ始めている。


 有名プレーヤーではジーン・サラゼン(Gene Sarazen、プロ初のグランドスラマー)やチック・エヴァンス(Chick Evans、全米 OP・Am 同年制覇)などはジガーを愛用し、大競技でも重宝した。
 エヴァンスは、1916 年の二冠達成時もバッグに入れて居り。また彼のライバルの一人でパッティングの名手・マッチプレーの鬼として知られたジェリー・トラヴァース(Jerome“Jerry” Travers)が 1915 年の全米 OP で優勝した際は、このジガーでのアプローチショットがピタピタ決まった事が勝利の要因であったと云われている。


 サラゼンはジガーが生まれて初めてボールを打ったクラブであった為か、非常な思い入れがあり。1949 年に出した回想記によると、選手権の際にも不確実なロングアイアンを抜
いてこちらを使用することがあり、“♯2~4 アイアンの距離を様々な球筋で打ち分ける事が出来た”と記し。ジガーは番手を付けてセットに組み入れるべきだ。と主張していた。
 (正確な号数が思い出せないが、筆者は 1950 年代の USGA 機関誌に、少年期のサラゼンを見出したプロ、アル・チューチによる、様々なライからのジガーショットのレッスン記事が掲載されていたのを読んだことがある。)


 このクラブについては一般男性ならば後者でマッシーと同じ位か 130~140yd は打てると思う。 筆者が打てた良いショットは、低く飛び出してフライトの終わりで急激にホップして
ポトリと落ちる球筋であったのが記憶に残っており、
 また、林の中からの脱出や木の枝がかぶさって高く上げられないが、ある程度の距離を出したい時にロングアイアンよりも操作性が良いので重宝している。
 そして日本におけるこのクラブでの最良のショットとしては 2023 年 12 月 14 日の鳴尾GC における JHGS 年末競技において 12 番ホール(150yd)でホールインワンを達成された方がジガー(1920 年代のマグレガー製と同形状)を使用していた事を挙げなくてはならない。 


 打ち方のイメージとしては、 シャフトの長いブレードパターをスウィングする感じで、キチンとコンタクト出来ればきれいなフライトと効果の在る球が打ち出せるだろうし、筆者が述べたトラブルからの脱出も、同じようなスウィング(場所の関係から 3/5 スウィング位が限度か) か、振り抜くよりもタップ式パットの様に弾くイメージが有ると良いかも知れない(ここは貴方の感性次第だ)。


 欠点としてはジョージ・ダンカンがクラブセッティングのコラムで、“シャローフェースなので芝の長いライではダルマ落としになる事がある。”と述べている事と、個人的な見解では“シャローで細長いフェース”なので、スウィングでのアングルの狂いが大きく影響し兼ねないという点だろう(その為にパターでフルスウィングするイメージなのだ)。


 なお、現在の復刻クラブのジガーはロングアイアンの一つとして一般アイアンの形状であることが多いので、どちらのモデルが欲しいにせよ購入の際はトラブルを避ける為に留意して置くべきだ。

 

・マッシー

 

 

 ヒッコリーゴルフにおける要のクラブといえる。
(ピッチショット用クラブであった 1880~1905 年頃の物は 40°位だが)1920 年代の頃でロフトは平均 35°±2 位で、長さは大体 37in。このため様々なショットに使われる。
 更に色々と派生クラブがあり、 単純なマッシーでも形状が様々で、クラシッククラブの原型になったものや、フェースプログレッションの大きい出っ刃の物など多岐に渡っている。
番手が降られたヒッコリーでは#5 にあたり、稀に♯6 表記のモノも有る。

 

『―筆者の所感―ヒッコリーゴルフの要』
 初心者にせよ熟練プレーヤーにせよ一番使用頻度が高く腕前に添ったショットを提供してくれるクラブであり。また、オリジナルクラブでもミッドアイアンと共に一番見掛ける番手なので入手しやすいだろう。


 旧式のロフターよりもコンパクトでディープフェースの形状故にピッチショット用に特化した溝なし時代の物はさておき、ヒッコリー黄金期のロフトやシャフトの長さの平均を見ると、 今の♯7 アイアン位になり、近代クラブでのゴルフで一番使うクラブとほぼ同じで。
ボールを地面からフライトさせ易く、距離も一定数出すことが出来るのだから何はなくとも必要なクラブだ。


 形状については形状紹介で書いたが、 二分すると出っ刃の物、そうでない物に分かれる。
前者はオフセットネックの物もあってカット等のコントロールショット向き。後者はボールを潰して打つタイプで、感じが全く違ってくる事に留意したい。


 メーカーによっては 1 のマッシー、2 のマッシー(或いは♯5 のマッシー、♯6 のマッシー) と 2 本続けてセットに入っているモデルがたまに在り、トム・スチュアートではロフトの差を表すためマッシーに♯1~3 と振ってあるモデルもあるが、そのような物は中々見かけない(後は J.H・テイラーが 1900 年前後に販売していた完全にピッチショット用のマッシーの流れをくむ形状も存在する)。


 ともあれタイプの違う物やロフトの違う物(全体でみると 32~41°と 10°位の幅があ
る)が結構在るので、寄せ集めセットの場合、ロフトの少ない近代アイアンに近いマッシー(筆者使用のトム・スチュアートが該当) はフェアウェイの中距離ショットに非常に使い易いが、下のマッシーニブリックとのロフトの差が大きく、またロフトの在るマッシーではミッドアイアンとの差が大きくなるので間を埋めるクラブが必要になってくる。
 この、番手の中間のクラブが手に入れば良いが、前話で書いたようにこれも中々無いので、違うタイプのマッシーを二本入れてみるのも手といえる。


 飛距離について、ヘッドに“120yd”とか“125-150yd”と目安の距離が刻印されているモデルも在るが、一般男性では 35°前後のロフトの物で 135~150yd が打てれば良いショットだろう。
 筆者の印象に残るこのクラブの長打の一つは 2019 年に神戸 GC の 1 番 170yd で、当時の関西学生連盟の男子委員の一人(プロ志望と語られていた) が当時モノとマッキンタイアの複製ボールを使ってグリーンに乗せた事例であった。

 尤も、これはグリーンに乗せるクラブであるのだから、不正確な 165yd よりも何時でもブレなく打てる 125yd の方に価値があるのは、どの時代のクラブでも変わらぬ真理ではあるのだが。
 またアプローチでは、チップショットから 100yd 越えからのカットショット等(主に出っ刃式)、色んな距離でも重宝するクラブだ。

 

 

 

(この記事の文責と著作権は松村信吾に所属します。)