ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

ダイジョーブ  また行ける

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俺の本質は、小心な臆病者で、軽薄で思慮浅く、見栄っ張りで女々しい。
だからそんな自分をなるべく出さない見せないように生きて来た...が、本質的にバカだから油断してるとすぐに馬脚を現す。

絵を描き始めた頃、社会を知りたい・自分を鍛え直す苦労がしたい、と水商売とサラリーマン以外のいろんな仕事を経験した。
いずれもバイトだったけれど、夜勤の工場の工員からトラックの助手や荷物担ぎ、画材店の店員や製本屋や地味で辛そうな仕事を選んで体験して回った...変わったところじゃ縁日でのテキ屋の店番までやった。

そんな中で記憶に残る何人もの男に出会った。

そのうち一番記憶に強く残っているのが、とある工場で一緒になった静かな男。
重い荷物を台車に積み込み、あちこちに人力で引っ張って移動させるハードな仕事だったが、古顔にいつも一番辛い仕事を割り振られてそれを黙々とこなしている40絡みの男が気になった。
自分の肌に感じる感覚では決して弱い男ではなく、意地悪な仕事を割り振っている何人かの狐のような古参の工員達なんて簡単にぶちのめせるような雰囲気があった。
しかし、その男は何を言われても「はい」というだけで、タバコを吸いながらおしゃべりをしている古参の工員の前をひとり汗を流して働いている。
俺は新参のバイトだったけど、見かねてつい彼の仕事を手伝うようになった...古参の工員たちには「ああ、いいからいいからあんたも休んでなよ」なんて言われたが。

ある時、やはり酷いイジメのような仕事の割り振りをされた時に、思わず彼に「腹が立たないんですか!あんなやり方は酷いでしょう!」なんて言ってしまった...すると彼は自動販売機に歩いて言って缶コーヒーを二つ買い、一つを俺に手渡しながら「ちょっと話しませんか?」

「私はいろいろあってここで働いています」
「女房と子供がいて、私にはそいつらを食わせていくことが一番大事なんです。」
「ここで静かに働けるなら、あんなことなんでもないんですよ」

「でも...私はね、もし女房子供に誰かが悪さをしたら、それがヤクザでもプロレスラーでも負けない自信と覚悟があります。」
「だから大丈夫ですよ」

その後、俺は彼のようにその覚悟を持ちたいと願った。
自分自身のつまらない喧嘩なんて、頭を下げて謝れば済む。
でも、俺も彼のように自分の女房娘に誰かが手を出したら、それがヤクザでもレスラーでも絶対に負けないようになろうと。
その後、格闘技もやったし体も鍛えたけれど分かったのは覚悟...相手が強くても多くても腕の一本や二本、最悪相手の一番強い奴との相打ちに持って行って必ず殺す覚悟を持たなければ家族は守れない。

自分がそういう気持ちになったのは、今までにたった一度だけ...30前後の頃、うちの奥さんを襲った二人の男をボコボコにしてしまった。
踏切で遮断機が下りた時に、うちの奥さんが一人と勘違いした男が悪さを仕掛けた。
それを俺が止めた時に、いきなり一人が殴りかかってきたので、有無を言わせずの乱闘になった。
その当時格闘技はもうやめていたが(その格闘技は実践スタイルのものでグラブをつけて対戦するものだったので「当て感」が身についていたんだろう)...殴りかかって来た最初の男は一発で失神して、残りの男が自転車を振り回すなどの大暴れになった。
しかし、すぐにその男も殴り倒した時、たまたま踏切で止まったトラックの運ちゃんに「あいつらが悪いんだから、早く逃げろ!」と言われて、奥さんを連れて逃げた。
後で聞くと、踏切は血で真っ赤になっていてパトカーが5台以上、救急車が2台以上来たんだとか。
自分は全く怪我をしていなかったが、最初の男は倒れたあと全く動かなくなっていたので、自分は「殺してしまったかも」と思い悩んだ。
そして、奥さんと相談して警察に電話して自首...なんと2〜3分でパトカーが来て、警察に。
しかし幸いなことに二人は大怪我で済み、初めは二人の怪我に対する犯人扱いだったものが、踏切に止まっていた車の運転手の目撃証言で「正当防衛」が認められ、相手も乱暴者ではあったがヤクザではなかったので後に示談扱いになって事件は収まった。

その後はそういう事は起きなかったが、覚悟は持ち続けていた。



...でも、今回の戦いは俺自身じゃない。
代わりに戦うことも、いざという時に相手を叩きのめすのも俺じゃない。
もどかしさと自分の無力感に苛まされる。

「ダイジョーブ 夏が過ぎた頃には、また二人でボールを打ちながら散歩出来るさ」
「ダイジョーブ 海も山もお前を待っていてくれる」
「ダイジョーブ 俺がついてる」