ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

愛のチッパー?

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Nさんは、長く付き合って来た男と別れようとしている。
特に決定的な事件があった訳ではないが、10年以上付き合って来た男に物足りなさが増して来た結果、出て来た「気分」だ。

男は特にハンサムでもなく、特に稼ぎがいい訳でもなく、特に感性を刺激する訳でもなく、特に好きな訳でもない。
10年以上付き合って来たのは、特に悪い所がある訳でもなく、特に鈍感である訳でもなく、結局特に嫌いな部分がなかったからだろう...積極的に出はなく消極的に「別に嫌いではない」という理由が大きかったような気がする。

Nさんの今の生活は、仕事はある程度責任ある立場を任されてそれなりに充実しているし、飲んだり喋ったりする仲間もいる。
趣味の方では、男と付き合い出してから誘われて始めたゴルフが気に入って、月に2回はラウンドして楽しんでいる...というより、最近はその2回のラウンドが面白くて、結構仕事以外の時間はゴルフに気持ちが行っている、と自覚している。
取り立てて目立つことのない相手の男に、唯一ほかの男達より優れているとNさんが感じているのが、そのゴルフ。
若い頃の一時期熱中したと言う彼のゴルフは、時々曲がって大叩きすることはあるが、総じてスピーディーで気持ちがいい。
殆ど素振りもせずに淡々と、当たり前にあるがままにプレーして行く彼のゴルフは、彼のほかのどんな時よりも格好いい、とは思う。

...しかし、何とははっきり言えない物足りなさが消えることはないので、最近のNさんは「もう潮時かな..」なんて考えていることが多い。
そろそろ彼と、その辺のことをはっきりさせようと、いつそれを言い出そうか考えている時に...男がNさんに言った。
「これ、君へのプレゼント」
「いつまでたってもグリーン周りのアプローチが上手くならないから、今度からこれを使えばいい」
「これはチッパーって言って、グリーン周りからパターのように打つだけでいい」

まるでパターにロフトがついたような形をした、きれいなクラブだった。
(別れ話をしようとしたのを、薄々感じたのかしら)

次の仲間とのゴルフの時に、その「チッパー」とやらを使ってみた。

寄る...嘘みたいにピンに寄る。

今迄はあいつが言ったみたいに、ショットは大分良くなって来たのにグリーン周りが苦手だった。
パターを使えば大ショート、ウェッジを使えばザックリ、アイアンを使えば大オーバーと、何をしてもダメな状態だった。
それがこのチッパーとやらは、パターのように振るだけでポンとボールが上がり、グリーンに乗って転がってピンによって行く。

「くそ! いいじゃない、こいつ...」
これじゃあ、このチッパーが役に立つ限り、あいつに別れ話をしづらくなる...

「愛のチッパー、君の役に立っただろ?」

そう言うあいつの顔が、目に浮かぶ。