ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

スライサーとフッカー....「持ち球」の誘惑

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ゴルファーには、必ず自分の「持ち球」というものがある。
...と言うと聞こえが良いけど、本当は「自分が普通に打つとそうなっちゃうボール」という事だ。

普通、大人になってから自己流で始めるとスライサーになりやすい。
地面にあるものを叩こうとするとどうしても上から打ち込みたくなるし、横に飛ばそうとすると手前を打つとボールに当たらなくなるもんだから、アウトサイドからインサイドに引き込みながら打とうとするのが普通だ。
そしてそんな棒切れで小さなボールを打とうとするには、身体が動くと当たらないから手だけで当てようとする....その棒切れが何キロもする程重くなければ、腕力だけで当てようとするのが当たり前だ。
ゴルフクラブと言う、先の方にほぼ直角に打つ場所がついている軽い棒切れを与えられれば、殆ど全ての大人はそうやって左から右に曲る球を打つようになる....まして野球などの経験がある人は身体を(肩も)開いてから打つようになってるんだから、スライスするのは当たり前の事。

しかしまだ力の弱い子供や女性は、そのゴルフクラブを(軽くても)腕力だけでは振れないために、自然に遠心力を使って振ろうとする...クラブヘッドを遠心力を使って振れば、最小限の力のロスでインサイドインに振ることになり、結果としてボールは左回転がかかって接線方向に飛び出す事となる。
だから、子供の頃にゴルフを始めた人や非力な女性は右から左に曲るフッカーが多くなる。

大人になってからゴルフを始めた人でも、ちゃんとレッスンプロについてスイングを習って来た人は、腕力に頼らずにゴルフ用の全身の筋肉を上手く使う事を教えられてフッカーになれる。
また極まれに、そうした環境にいても自分の筋肉や柔軟性・体型などのために本来とは逆の球筋に自然となる人もいる。

上級者と言われる人にフッカー(あるいはドローヒッター)の人が多いのは、フックボールの方がより少ない力で飛ばせる事と身体が故障し難い動きであると言われている(より年をとってからもゴルフが出来る動きとも)。
対するスライサーは、どうしてもボールに伝わる力にロスが多い...そして身体がよく動く時にはフックよりずっとコントロールしやすいスライスボールも(フッカーよりかなり多く身体を動かす必要があるので)、年をとったり故障を持つとコントロールが利かなくなり飛距離も格段に落ちて行く。

プロと言うのはそれぞれの持ち球にそれなりの自信と精度を持っているのだが、稀に目的の為に敢えて持ち球を変えようとするものがいる。
過去に有名なのがベン・ホーガン。
飛ぶけど荒れて、ここ一番で左へのミスが出る事に悩み、長い時間をかけてフッカーからスライサーになった....その過程を本にしたのが、あの有名な「モダン・ゴルフ」だ。
スライサー(フェードヒッター)となってからのベン・ホーガンの活躍は、ゴルフ史に「鉄人」の称号で呼ばれている通りの偉人となった。

しかし、実はプロには持ち球を変えようとして長い時間苦労したあげく、結局上手く行かず、それ迄の力さえ失って消えて行った強豪が結構多いのだ。
多いのがあのマスターズのためにフェードからドローに持ち球を変えようとして、失敗して行ったプロ達...多くのホールがフックボールを要求する設計になっているために、ここで勝ちたくてスライスからフック、それもハイドローを打とうとスイング改造をしようとする。
日本ではあの伊沢利光がそう...世界を相手に戦える飛距離と精度を誇ったフェードボールを、伊沢はマスターズで勝つためにハイドローに変えようとした。
結果はハイドローは最後迄自分のものにならず、得意だったフェードボールも錆び付いて、ついにはツアーから消えて行った。

今、去年の全米オープンで「なんてつまらない強さだ」と、呆れられた程の勝ち方をしたドイツのマーチン・カイマーが、(持ち球のフェードボールを)マスターズで勝つためにハイドローに変えようとスイング改造中らしい。
しかし、その結果は直近3試合予選落ち...目標としていたマスターズも7オーバーで予選落ち。
今季の最高位は去年11月の6位だが、今年に入ってからは31位、44位...そして連続予選落ち。
もちろんこの先持ち球変更のためのスイング改造は成功するのかもしれないが、先人達の失敗の歴史の一つに加わるかもしれないと言う嫌な予感がする。
持ち球の変更と言うのは、プロでさえ非常に困難な事なのだ。

絶対にスライサーを変えなかったリー・トレビノのようなプロもいるが、彼は持ち球一辺倒ではなく打とうとすればスタンスを変え教科書通りのフックの打ち方でフックだって簡単に打っていた。
ただ、基本はスライサーだと自覚していて、それを変えようとは絶対にしなかった。

スライス打ちがフックを打てばスライスの「悪い点」の矯正になる、フック打ちがスライスを打てばフックの「悪い点」の矯正になる。
持ち球を自覚した上で、常に逆の球も打とうとする曲がり球専門の「変態ゴルフ」は、そう考えてみるとゴルフを長く楽しむための「サプリメント」みたいなもんじゃないだろうか?
皆さんも、持ち球を変えようなんて大それた事ではなく、もっと出来心で「球を曲げる事」を楽しんだ方がゴルフが面白いんじゃない?


...まあ、俗物インチキゴルファーの自己弁護ですけど。