ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

お一人様

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気がつけば、Kさんは30歳は数年前に超えてしまった。
学生時代からの友人はいるが、社会人になってからの友人はいない。

学生時代の、と言っても一つだけではなく、中学からのそれぞれの時代に友人はいる。
しかし、その付き合いも結婚した人が多い集まりと独身の人が多い集まりに自然に別れて、今気兼ね無しに集まって話す付き合いは一つだけ...勿論全員独身、だ。
そんな友人達との飲み会や食事会で話題になるのは、これからに対して何をしているか、という事。
7人のうち2人は、それぞれローンで小さいながらマンションを買い、将来を見据えた生活を始めている。
3人は親と同居して、給料の大部分を貯金している、という。

もう一人は、給料のほとんどを旅行に使っている。
貯金はわずかだが、「なるようにしかならない、それより身体が動けるうちに世界中を回りたい。」と。
Kさんはずっとそういう友人達を見て来て、自分が何をやりたいのか探して来た。
結婚出来れば結婚したいが、恋愛に対する強い執着もないし、家族を持つというイメージも希薄だ。
ずっと、そうしたよくわからない鬱々としたものが気持ちの隅に渦巻いていた。
「このままじゃダメだ、でも何をすればいいか判らない」

でも、今、Kさんに「一人でも」やって見たいものが出来た。
2年前にその気持ちの奥底の鬱々が、すっきりと晴れた出来事があった。
今勤めてる会社のゴルフコンペ...数少ない若い女性社員だからどうしても参加して欲しい、と上司に説得された。
上司の奥さんの使っていた道具を借りて、靴と手袋だけ買って臨んだゴルフコンペ。
その前に数回上司に練習場に連れて行ってもらっただけだったが、高校時代にソフトボールをやっていたKさんはそれほどボールを打つ事には苦労しなくて済んだ。
勿論方向はめちゃくちゃだし、パットなんてどうしていいか判らない。
当然結果はブービーメーカーだったけど(スコアは上司が数えてくれたがハーフで80以上叩いたはず)、午前と午後に1回ずつものすごく気持ちのいい当たりが出た。
ソフトボールでホームランを打った時よりずっといい手応えで、信じられないくらいボールは長い時間空を飛んでいた...落ちたところは池だったり、崖下だったけど。

スコアより何とも言えない「スカッとした」感覚に、Kさんは安い道具を自分で揃えて、毎週金曜日の夜に開かれる近所の練習場の初心者教室に入った。
2年経って、確実に上手くなっている手応えがあるけれど、会社のゴルフコンペはいろいろな付き合いがついてくるために面倒であまり出たくない。
しかし、ゴルフ教室のコンペ以外にはFさんにはラウンドの機会はない...ラウンドしたくてしょうがなくても、まだ110を切れないKさんにはオープンコンペに参加するのも怖い。
それに土・日のオープンコンペは結構高い。
そこでゴルフ教室のレッスンプロに教えてもらったのが、安いコースの会員権を買って月例に出る事。
勿論そんな競技に出るなんてトンでもないと思ったが、「Cクラスの最大ハンデから始めればいい。ハンデが減って行くのが励みになるし、きちんとルールを覚える事になるから。」とプロに言われた。
いろいろ相談して、電車でも1時間ほどで行けるコースの会員権を購入した。
会員数は多いが、毎月A・B・Cクラスの月例をきちんと開催し、年会費も安い。
会員権は10万、名義書き換え料15万、それに諸々あって30万一寸で購入出来た。
崖から飛び降りるくらいの決断だったけど、期待感も一杯だった。

もう3回の月例に出た。
100はまだまだ切れないけど、「お一人様」で参加しているおかげで、一人で参加している他のおばさん達と仲良くなったし、一生懸命ゴルフをしているいろいろな人たちと知り合えた。
そうやって知り合いが増えると、普通の日曜日に一緒に回ろうと誘いも色々と受けるようになった。
みんな下手だけど、上のクラスに上がりたくて懸命なのが一緒にプレーしていて実に楽しい。

このことは、まだ友人達にも言っていないし、会社の人たちには絶対に言わない。
あと何年かして、Bクラスに入れたら言うかもしれない。

でも、メンバーになったおかげで「お一人様」で遊ぶ事が出来る。
Kさんは、また今週も「お一人様」でコースに予約の連絡を入れる。
今週はどんな楽しいゴルファーと一緒になるんだろう...。

こんな風に「お一人様」を楽しんでいると、「お二人様」になる日は当分来ないような気が...

...まあ、それは後で考えよう...