ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

最後の望みは..

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Iさんは、私よりずっと年上の、いわば人生の成功者と言えるような人だった。
特に親しい訳ではなく、仕事の関係で数回お会いし、話をお聞きした程度の付き合いだった。

ゴルフが大好きで、その頃はもう現役の仕事はリタイアしてゴルフ三昧の日々を送っていた。
仕事は後の者に譲り、自分は日本に限らずアメリカやイギリスの著名なコースの制覇を残りの人生の目標にしていて、何とも羨ましい生活だった。

話をすれば彼のゴルフ話は多岐に渡っておもしろおかしく、ゴルフに対する蘊蓄も半端なものではなく、雄弁に語るその語り口も楽しいものだった...しかし、彼のゴルフ話の最後に必ず言うのが...
「私はね、コースで死にたいんですよ。」
「畳の上やベッドの上で死ぬなんて絶対にいやです」
「私は、ゴルフをやりながら、とあるグリーン上でバッタッリ倒れてさようなら...それがいいんです」
「だから、その確率を少しでも高めようと、出来る限りコースにいるようにしているんです」

一番いい時にはシングルハンデで、それなりにいい成績も残したようだったけれど、その頃はスコアもつけずに毎日の散歩のようにラウンドしているんだとか。
楽しそうなゴルフ話で、恵まれた生活で、ずっと持ち続けているゴルフに対する情熱も冷めないで...でも、最後の話を聞くと自分の死に場所をゴルフ場に決めている...「最後の望みはコースで死ぬこと」

そんな彼が亡くなったとの知らせを聞いた時に、まず思ったのが「望み通りになったんだろうか?」

それほど親しい付き合いではなかった私が、その辺の状況を聞くことが出来たのは、それから半年経ってからのこと。
「最後はどんな風に?」
「家族みんなに看取られて、穏やかに逝かれたそうです」
「病院でですか?」
「ええ、朝に家で倒れて、入院していたとか...」
「その日、ゴルフ場に行くつもりだったみたいですよ」

望みは叶わなかったか...
残念だったですねえ、Iさん。
でも家族に囲まれてだったら、良かったんじゃない?
...きっとそのとき、家族の顔よりもコースの風景を見ていたんでしょうけど...