ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

「手」作りの道具

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ゴルフを始めた30代半ばの頃、時代はまだ「ウッドはパーシモン」だった。
間もなく「マルマン ダンガン」なんかが出てきて、「メタルヘッド」の時代へと移っていくのだけれど、その当時はそんな物を使うのは邪道という雰囲気が普通にあった。

初めて買ったゴルフセットはディスカウントショップの安物だったけど、本気になると気になるのは「本物」のパーシモンのドライバーとフェアウェイウッド。
ゴルフに興味を持ち、ある程度知識がついてくると、その頃人気だった「クラシックパーシモン」の名器、トミー・アーマーの693とか、ターニーのM85だとかがいかに凄い名器なのかを知るようになるが、そんな物は当時で何十万円もしてとても買える物じゃなかった。

そこで、ミズノやら、マグレガーやらの現行モデルをローンで買うことになるのだが、そのやっと手に入れた安物のパーシモンドライバーでも、「道具」としての美しさには惚れ惚れとした。

それには、経験を重ねた職人が、その熟練した技をつぎ込んで作り上げる、ある種の芸術品と言う匂いがあった。
クラウンに現れる木目の美しさ、人の手で削り上げる造形美と機能美を重ね合わせた形の美しさ、一分の隙もなくはめ込まれるペーパーファイバーのインサートの美しさ....
自分の買える範囲のパーシモンドライバーは、決して高級品ではなかったけれど、それでも一本一本違う全体の形や木目の入り方、オイルの色の微妙な違いなんかを見比べて、気に入った「一本」を見つけるのには、相当時間をかけた。
そして、いつかは「名器」と呼ばれるクラシックパーシモンのドライバーを手に入れる、というのが夢だった。

当時売っていたドライバーでも、最高級品はクラシックドライバーと同じように、ミシシッピ川流域にほんの少し残っているという樹齢200年を超える伝説の老パーシモンを使っている、というのが売りだった。
それを何年も何年も寝かせて自然乾燥させ、それをオイルに浸して..という時間と手のかかった素材を、熟練した職人が勘と経験を元に一本一本削り上げる..,これは道具というより、工芸品を作るのと同じだろう。

実際に、コースでクラシックのパーシモンドライバーを使っている人は憧れの的だった。
その人達もそんなドライバーを宝物のように大事に扱っていた。

その後、一流のクラシックドライバーを手に入れることは出来なかったけれど、絵に描いたような美しいフェアウェイウッドを道具としてではなく、手にして見ることを楽しむために手に入れた。
もちろん有名で高価な物ではなく、造形が綺麗と言うだけの物で、手に入れた値段は二束三文と言うところ...「部屋飾りにでもすれば?」と中古クラブ屋が処分品にしていた中古品。

左が「スーパーターニー M65 oilhardened」4W、右が「トミー・アーマー AT2W 」の3W。
実用は出来ない(と思う)のだけれど、色も形も美しい。

今の金属ヘッドのクラブは「工業製品」だけど、ここには手で作った「工芸品」の魅力がある。
性能は確かに「工業製品」の方が圧倒的に良いけれど、代わりに我々はゴルフの「豊かさ」の何かを失ったような気がするのだけれど...