散歩は、まだ歩いた事のない道を探して歩く。
町外れ、生きている家の間に昔家であったものの姿が現れる。
枯れ草に絡まり、壁は崩れ、屋根はもう半分落ちている。
土に半分埋まった洗面器や食器が見える、
錆び付いた蛇口や、よく見ないとわからない程腐り果てた品々がある。
そこにあるのは、過ぎ去った時間。
多分、何人もの、何代もの家族の住んだ痕跡。
笑い声が溢れていた時間もあったはず。
悲しみや怒りに満ちた時間もあったはず。
建てた人の夢や希望が、朽ち果てた屋根や壁にまだ残っているような気がする。
最後に立ち去った人の、悲しみや寂しさがまだ残っているような気がする。
夏にはもうすっかり草に覆われてしまうんだろう。
冬の寒さが草を枯らして、こうやって姿を外にさらけ出す。
やがて土に帰る迄、きっと家はその時間の積み重ねを思い返しているんだろう。
もうその懐に、暮らしていた人々の温かさを感じる事は二度とないまままに、
ただ我が身の滅びて行く様を、じっと感じているんだろう。
冬の冷たい凍える風が、むしろ気持ちが良いように
きっと感じているんだろう。