ケ・セラ・セラと生きて、セ・ラビと酒を飲み(イラストレーター渡辺隆司のブログ)

なるようにしかならないけど、それが人生...せめて酒に唄って行きますか

納豆ブルース

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この一年は速かった。
5月に心臓のカテーテルアブレーション手術を受けた事で、一層そんな風に感じるのかもしれない。
1993年頃...仕事が忙しく大事な友人との別れなどが重なってかなり体に無理をしていた頃、時折心臓にフワフワとした違和感を感じていた。
それが1996年、徹夜で仕事を終えてから行った12月の月例で初めての大きな発作が起きた。
脈は信じられないくらいバラバラになり、休んでも横になっても治らず、夜になって病院の救急に行った。
救急の医師では治らず、循環器の専門医に電話で聞きながらの応急手当だったが症状は改善されなかった。

これ以来、何か切っ掛けがあるたびに起きる発作は一日では収まらず、3日から1週間続く脈の異常に悩まされる事になった(この不整脈は年々酷くなり、この何年かはちょっと飲んだり少し急に動いただけで酷い発作が起きていた)。
意識が飛んだり倒れたりと言う事はないが、胸の違和感を強く感じる為に集中力が続かず、ゴルフ中は無理をせずに流してラウンドする様になり、飲酒は付き合いを断る様にもなった。

その1996年以来、3ヶ月ごとに病院に行って検査・診断してもらい、何種類もの薬を飲み続ける事になった。
その薬の中に、血液の固まるのを防ぐ有名な薬「ワーファリン」があり、それを最初は3錠、後に2・5錠毎日飲む様になった。
怪我をすると出血が止まらなくなるので、外傷には注意する様にさんざん言われていた。
そして注意点としてこの薬とぶつかる食品や薬が結構あるので、その食べ合わせというか飲み合わせには十分注意する様に言われた。
その一番代表的な「食べてはいけないもの」が「納豆」。
ナットウキナーゼとぶつかるとかで、以来20年以上食べない食品の代表となった。

別に、特に納豆が好物と言う訳ではなかった(むしろ苦手だったかも)が、親が茨城出身だった為に常に食事の「おかず」には出ていた。
(酒の摘みのとしての「マグロ納豆」や「イカ納豆」なんかは結構食べていた。)
だから納豆禁止になっても、それほど納豆に対する飢餓感はなかったのだが...カテーテルアブレーション手術後、体調が安定して来た時に主治医のN先生に「もうワーファリンは飲まなくていいです」「納豆食べても大丈夫ですよ」と言われた。
本心では、「万が一不整脈が出て血栓が出来かかった時にはワーファリンがその血栓を溶かしてくれる」と言う事が、まるで「お守り」の様な気持ちになっていたので驚きと不安があった(もうワーファリンは死ぬ迄飲み続ける薬と思い込んでいた)。

それでも、薬を飲み続ける事は肝臓に負担をかけ続けるので、ワーファリンは夏から飲まなくなった。
そしてその後、20年あまりタブーとして来た「納豆食い」を恐る恐る試してみた。
...正直、「旨かった!」。
以前それほど好きでもなかった納豆が、「毎日食ってもいい」と言うくらい旨く感じた。
実際今では一日1回は食べているし、晩酌の純米酒の摘みがなければ、納豆に海苔を混ぜて酒の摘みにしている...これが旨く感じるのだ。
こんな些細な事でも、「面白いね、人生は」...なんて。

その納豆とまるで連動しているみたいなのが、ヒッコリークラブと糸巻きボールでのゴルフ。
実は不整脈の発作が頻繁に起きる様になってから、競技ゴルフに対する情熱は急激に冷めてしまったのだ。
例えアウトをパープレーで終えても、途中で心臓に違和感を感じた途端全く集中力が無くなり、スコアをまとめると言う気が無くなってしまう...これは、それが原因での突然の「死」までを恐れてしまう自分の臆病さに原因があった様に思う。
仲間には故障や怪我での「やる気喪失」を理由にしてたが、本当の所は年々酷くなって行く不整脈がそうしたスコアに対するこだわりをすっかり自分の心から消してしまったのが理由だった。

そこに「打つ事だけ」で楽しく感じるヒッコリークラブに出会った。
他人より飛ばす事が気持ち良く、ピンに絡むボールが気持ち良く、難しいトラブルをトリッキーなリカバリーショットでピンに寄せる喜び....そうした事には今でも心惹かれるのだけれど、それらを一切「関係なく」させたヒッコリークラブには、特急列車のスピード感ではなく各駅停車の旅の味があるのだ。

勿論現代に残っているヒッコリークラブは限られた数であり、何時壊れるか判らず、シャフトが無いので修理も出来ず、使えるモノを揃えるのに時間と金額がそれなりにかかってしまう道具で遊ぶのは、誰にでも勧められるものではない。
そしてそんなクラブは今のツーピース・スリーピースボールを使うと、すぐに破壊されてしまう為に、クラブに優しい糸巻きボールも探す必要がある(今も新しい糸巻きボールを売っている所もあるが、1個千円もする高級品)。
その古い糸巻きボールも、もう30年も前に製造されなくなってしまった代物。
製造当時の性能が残っているはずも無く(何たってゴム製品だ!)、探すのにもオクやら古道具屋やらで手間がかかる。
(最近、古い糸巻きボールもそれぞれ使える具合が判って来たので、後日個人的感想として報告する。)

こう考えてみると、自分のゴルフに対する姿勢は不整脈が出る様になってすっかり変わってしまった。
もし不性脈が無かったら、今でも競技ゴルフをやっていてシニアの試合に出たりエージシュートを狙ったり、道具も最新の性能の良いモノを探して打ち比べをしていただろう。

でも、今の自分はこれで良かったと感じている。
不整脈のおかげでヒッコリーゴルフを楽しむ様になり、納豆の美味さを再確認出来、来年を新しい気持ちで迎えられる。
人生ってのは先が判らないから面白い。